「AIが自信満々に間違った答えを返してくる…」そんな経験、ありませんか?実はこの現象には名前があり、ハルシネーションと呼ばれています。
2025年9月、OpenAIがこの問題の根本的な原因を突き止めた研究論文を発表し、世界中で注目を集めています。
本記事では、その一次情報をもとに、ハルシネーションが起こるメカニズムと背景、そしてOpenAIが示した6つの解決策を初心者にも分かりやすく解説!
AIの嘘つき問題の裏側にある深い理由を、一緒にひも解いていきましょう!
そもそもAIの「ハルシネーション」とは?

AIと会話していると、ときどき「え、それ本当?」と疑いたくなるような回答に出会ったことはありませんか?これこそが、AI特有の現象「ハルシネーション」です。
ハルシネーション(hallucination)とは、AIが事実とは異なる内容を、まるで本物のように答えてしまう現象を指します。たとえば「有名人の誕生日は?」という質問に対し、AIが自信満々にまったくのデタラメを返してくる。これがAIのハルシネーション。
この用語は、もともと「幻覚」を意味しますが、AIの場合は「実際に存在しない情報をそれらしく生成する」ことから名付けられました。人間の勘違いとは違い、AIには意識がないため「うそをついている」つもりはありません。それでもユーザーにはもっともらしいウソに見えてしまうのです。
では、なぜこんなことが起こるのでしょうか?その背景にある仕組みを、OpenAIの最新研究からひも解いていきましょう!
OpenAIの論文からわかったこととは

2025年9月、OpenAIは「Why Language Models Hallucinate(なぜ言語モデルはハルシネーションを起こすのか)」という注目の研究論文を発表しました。これは、AIがなぜ誤情報を生成してしまうのか、その仕組みを科学的に解明しようとした初の本格的な取り組みの一つです。
この論文が明らかにしたのは、「AIは嘘をつくように設計されたわけではない」という点。むしろ、トレーニングや評価のルールが、知らないときには黙るよりも、それっぽく答えるほうが高く評価されるようになっていることが問題なのです。
たとえば、「この人物の誕生日は?」という質問に対して、モデルが「分かりません」と答えるより、当てずっぽうでも何か答えたほうがスコアが高くなるという仕組みが存在しています。これにより、AIは不確実な情報にも自信満々で答えてしまうよう最適化されてしまうのです。
さらに論文では、「頻繁に登場する情報(有名人など)は正答率が高いが、希少な情報(マイナーな事実など)になると誤答が急増する」ことも指摘されています。つまりAIは、パターンのある情報には強いが、一度きりの知識にはめっぽう弱いのです。
このように、ハルシネーションの背景には、モデル自体の問題だけでなく、設計や評価の文化的な問題があることが明らかにされたのです。
なぜAIは堂々と嘘をつくのか?ハルシネーション発生の根本原因

AIが間違った情報を、まるで事実のように自信たっぷりに答えるのは、決して偶然ではありません。むしろ、そうなるように設計されてしまっているのです。
その背景にあるのは、AIのトレーニング方法と評価基準です。現在主流のAIは、「次に来る単語を予測する」という仕組みで学習しています。つまり、会話の流れや文章の文脈から「それっぽい」言葉を選ぶよう訓練されているのです。ところがこの訓練では、「知らないときには黙る」という判断を学ぶ機会がほとんどありません。むしろ、「何か答えた方が評価される」ように設計されているケースが多く、それがハルシネーションを引き起こす原因になっています。
実際、OpenAIの論文では「研究者の誕生日」や「博士論文のタイトル」といった、頻度が低くてデータにあまり含まれていない情報に関して、AIが自信満々に間違えた回答を繰り返す事例が紹介されています。
このようなランダムな事実はパターン化が難しいため、AIは「分からない」と言う代わりに、もっともらしく見える推測をしてしまうのです。しかも、そのような答え方の方がスコアが高くなるよう評価されていれば、AIはその行動を強化し続けます。
つまり、AIが堂々と嘘をつくように見えるのは、実際には私たち人間が「当てずっぽうでも答えるAI」を育ててしまっている結果でもあるのです。真に信頼できるAIをつくるには、まずこの構造的な問題に向き合う必要があります。
実際にあった自信満々の誤答とは?

AIのハルシネーションが厄介なのは、その間違い方がとても自然で、それらしく聞こえることにあります。たとえ内容が事実とまったく違っても、自信満々で答えるため、利用者が誤解してしまうリスクが高いのです。
なぜそんなことが起こるのかというと、AIは「情報の正しさ」を判断する力を持っているわけではなく、「もっともらしい文章を作る」ことに特化して訓練されているからです。特に、一度しか出てこないようなマイナーな事実や、訓練データに含まれていない情報に関しては、AIは正解を知らない状態なのに、あたかも知っているかのように答えてしまいます。
たとえば、OpenAIの論文では、実在する研究者の博士論文のタイトルを質問したところ、AIは毎回異なるタイトルを返しました。しかし驚くべきことに、そのどれもがそれらしい表現で構成されているため、一見すると本物のように感じてしまうのです。しかも、モデルはそれらを高い自信度で提示していました。これはAIが「不確かなことには答えない」という選択肢を持たず、「とにかく答える」ように最適化されている証拠です。
このような事例からわかるのは、AIは「知らないことを知らないまま答える」という特性を持っているということ。そしてその誤答がもっともらしいほど、ユーザー側のチェック体制やリテラシーが重要になってくるのです。
OpenAIが提案する6つの解決策
AIが知らないのに堂々と答える問題は深刻ですが、OpenAIはそれに対して明確な方向性を提示しています。論文では、ハルシネーションを減らすための6つの具体的な対策が提案されており、今後のAI開発に大きな影響を与えると考えられます。
まず重要なのは、AIの評価方法を見直すことです。現在は「正解を出す」ことだけが重視されており、「分かりません」と答えるとスコアが下がる仕組みになっています。これを逆に、不確実なときに正直に「分からない」と答えるAIを評価するようにすれば、無理な推測は減らせるというわけです。
例えば、OpenAIは次のような6つの解決策を提示しています。
- 評価方法の改革:正答率だけでなく、不確実性の表明を評価に含める。
- AIの謙虚さを評価する:自信がないときに無理に答えない能力を重視。
- 不確実性の表現強化:単に「正しい/間違い」ではなく、どれくらい自信があるかを表現できるようにする。
- 公式評価基準の見直し:リーダーボードなどの指標を、誤答抑制や信頼性重視に変更。
- 学習データの質と多様性を高める:特に低頻度な事実をカバーできるよう強化。
- モデルの校正能力を重視する:サイズの拡大だけに頼らず、「自信と正確性のバランス」をとる設計へ。
これらの対策は、単にAIの性能を上げるだけでなく、「信頼できるAI」を実現するために欠かせない要素です。人間のように「分からないことは分からない」と言えるAIこそが、次の世代に求められているのかもしれません。
これからのAIに求められる姿とは?
これからのAIに最も求められるのは、単に賢くなることではなく、「分からないときに正直でいられること」です。つまり、知らないことを知らないと伝えられる、信頼できるAIが理想とされる時代に突入しています。
これまでのAI開発は、情報量や正答率を高める方向に注力されてきましたが、それだけでは限界があります。特に、正解が一つしかない質問や、データにほとんど含まれていない情報に対しては、AIが誤って推測し、堂々と間違えるという事例が増えています。こうした問題を放置すれば、ユーザーの信頼を失い、AI活用の可能性そのものが損なわれかねません。
一方で、OpenAIのような研究機関が提示する「謙虚なAI」「校正されたAI」という方向性は、こうしたリスクを回避する大きな希望でもあります。ユーザー側もまた、AIが万能ではないことを理解し、「AIが出した答え=正解」と思い込まない姿勢が必要です。利用者自身が、AIの答えを鵜呑みにせず検証するメディアリテラシーを持つことも、今後ますます重要になります。
信頼できるAI社会を実現するには、開発者だけでなく、私たち一人ひとりの使い方や意識も問われているのです。