更新日: 2026年9月18日
間接業務の隠れたボトルネックは、PC操作ログと業務データで実際の作業を可視化することで見つけられます。感覚や印象ではなく、時間帯別の作業時間・アプリ切替の頻度・差し戻しの発生状況といった事実から、どこに改善余地があるかを特定するのが最初のステップです。
この記事の要点
- 「忙しいのに何に時間がかかっているか説明できない」状態は、業務がツールごとに分断され、実態が可視化されていないことが原因
- PC操作ログでは、業務・アプリ別の作業時間、時間帯別の集中、アプリ切替や再入力の頻度、差し戻し・待機時間が確認できる
- ボトルネックを特定したあとの改善手段は、AI・RPA・業務標準化・システム連携から業務の性質に応じて選ぶ。AIありきで決めない
- 可視化の目的は個人の監視や査定ではなく、業務プロセス上のムダを見つけること
忙しさの正体が説明できない理由
現場が忙しいことは分かっていても、その忙しさの正体を具体的に説明できない企業は少なくありません。原因は業務がメール・Excel・チャット・SaaS・基幹システムに分断されていることにあります。システムの外で発生している検索・転記・確認・待機・再作業は誰の目にも見えません。
改善会議を開いても参加者それぞれの印象論をもとに改善対象を決めてしまい、優先順位が定まらないまま終わることもよくあります。工数・頻度・品質・改善難易度を比較する共通の判断軸がないまま「なんとなく大変そうな業務」から着手すると、実際の負荷が大きい業務を見逃してしまいます。
当社はAI導入支援・業務改善コンサルティングに携わる中で「忙しさの正体が分からない」という相談を数多くいただいてきました。多くの場合、最初に必要なのはAIの導入ではなく業務の実態を事実として把握することです。
PC操作ログで分かること
タスクマイニングとは
PC操作ログとは、パソコン上でのアプリ利用状況や画面遷移、作業時間といったデータです。このデータを分析する手法は「タスクマイニング」と呼ばれます。現場担当者が画面上で実際に行う操作まで対象にできる点が特徴です。
基幹システムなどのイベントログから業務フロー全体を可視化する手法は「プロセスマイニング」と呼ばれます。タスクマイニングはシステムの外で起きている作業まで捉えられる点が異なります。
確認できる3つの項目
タスクマイニングで確認できる代表的な項目です。
- 業務・アプリケーション別の作業時間:どの業務にどれだけの時間が使われているか
- 時間帯別・曜日別・月末月初の業務集中:いつ負荷が集中しているか
- アプリ切替・ファイル操作・検索・転記・確認の頻度:どこで手作業が発生しているか
これらに加えて再編集・差し戻し・処理待ちの発生状況を見ることで、実際の作業以外に費やされている時間も把握できます。
モデルケースで見るボトルネック特定
※以下は、一般的な業務課題をもとに構成したモデルケースです。特定企業の導入実績や成果を示すものではありません。実際の効果は、対象業務、データの整備状況、利用者数、既存システムとの連携条件によって異なります。
経理部門を想定したケース
従業員数200名規模の企業の経理部門を想定します。月次の請求処理業務で、担当者から「月末だけ残業が増える」という声が上がっていました。
ログから分かった事実
PC操作ログを確認したところ次の事実が分かりました。
- 月末3日間に処理件数が集中し、1件あたりの処理時間も平常時の1.5倍程度に伸びていた
- 販売管理システム・Excel・会計システムの間を1件の処理につき平均5回以上往復していた
- 同一の顧客情報を販売管理システムとExcelの両方に手入力していた
特定できたボトルネック
ボトルネックは「処理件数の多さ」そのものではなくシステム間の連携不足による二重入力と確認往復にあると特定できました。改善手段としては、AIによる自動化よりも先に販売管理システムとExcel間のデータ連携(API連携またはRPAによる転記削減)が優先候補として挙がります。
ログから見えた事実をもとに改善手段を比較検討するのが、ワークインテリジェンスの基本的な進め方です。測定すべきKPIとしては処理1件あたりの所要時間・システム間の往復回数・月末3日間への処理集中度などが考えられます。
改善手段の選び方
PC操作ログで課題が見えても、AI導入が常に最適解とは限りません。業務の状態によって優先すべき改善策は変わります。
| 業務の状態 | 優先すべき改善策 |
|---|---|
| 高頻度で手順が固定され、例外が少ない | RPA・システム連携・入力自動化 |
| 文書を読む・要約する・分類する・下書きを作る | 生成AI・RAG・AIアシスタント |
| 手順・ルール自体が曖昧で担当者ごとに違う | 業務標準化・ルール整備・手順書見直し |
| 同じ情報を複数システムに入力している | API連携・マスタ統合・RPA |
| 誤りが重大で人の最終判断が不可欠 | AIは補助に限定し承認・レビューを残す |
「AIを入れたい」という要望が先にある場合でも、まず業務の状態を確認します。標準化やシステム連携のほうが効果的なケースは少なくありません。AIが不適切と判断される場合は、無理にAIを使わず手順の見直しやデータ連携を優先することが重要です。
個人監視にしないための前提
PC操作ログの活用を検討する際、最も多く寄せられる懸念が「従業員を監視しているように受け取られないか」という点です。この懸念は正当なものであり、あらかじめ前提を明確にしておく必要があります。
可視化の目的は個人の査定やサボりの発見ではなく業務プロセス上のムダ・待機・手戻りを把握することです。分析の単位も個人ランキングではなく、チーム・職種・業務カテゴリを基本とします。導入にあたっては、業務改善が目的であることを現場・人事・情報システム部門・法務部門と事前に合意しておくことが欠かせません。
閲覧権限を業務改善の責任者に限定すること、取得データの保存期間や削除ルールを明文化することも、現場の協力を得るうえで重要な要素になります。
よくある質問
タスクマイニングとプロセスマイニングの違いは何ですか
プロセスマイニングは基幹システムなどのイベントログから業務フロー全体を可視化する手法です。タスクマイニングは、現場担当者がPC画面上で行う具体的な操作(アプリ切替、入力、検索など)まで対象にできる点が異なります。両者は対立するものではなく、組み合わせて使われることもあります。
PC操作ログの取得は従業員の同意が必要ですか
業務改善を目的とした分析であっても、現場への説明と合意形成は必要です。取得する目的・対象範囲・データ項目・閲覧権限・保存期間を事前に明確にし、現場・人事・法務・情報システム部門と合意したうえで進めることが望まれます。
ボトルネックが見つかったら必ずAIを導入すべきですか
必ずしもそうではありません。業務の性質によっては、業務標準化やシステム連携のほうが効果的な場合があります。AIは改善手段の一つであり、目的ではありません。ログから見えた事実をもとに、AI・RPA・標準化・連携を比較して最も効果的な手段を選ぶことが重要です。
小規模な企業でも取り組めますか
対象部門・対象業務を絞れば、規模の大小にかかわらず着手できます。まず1〜2の業務に範囲を絞り、効果を確認しながら段階的に広げる進め方が現実的です。
業務の実態を可視化したうえで改善の進め方を相談したい場合は、お問い合わせからご連絡ください。
参考文献
- UiPath「Task Mining」公式ドキュメント(Automation Cloud, 最新版) https://docs.uipath.com/task-mining/automation-cloud/latest/user-guide/introduction-as
- Microsoft「Power Automate – Process advisor」2023 Release Wave 1 リリースプラン(2023年10月公開・現在はアーカイブ済みページ) https://learn.microsoft.com/en-us/power-platform/release-plan/2023wave1/power-automate/process-advisor




