更新日: 2026年9月15日
「海外はAI活用が進んでいる」というイメージを持つ方は多いと思います。実際のところ、海外の製造業でAI活用がどこまで進んでいるのかを、2026年に公表された海外の調査データから確認してみます。結論を先に言うと、海外の先進的な製造業でも「一部の業務で使い始めた」段階と「全社の標準として定着させる」段階の間には、まだ大きな差があります。
この記事の要点
- McKinseyの2026年8月調査では、88%の組織が何らかの業務でAIを使っているが、全社スケールに到達しているのは約2割にとどまる
- コスト削減効果は「サプライチェーン管理」「サービスオペレーション」「製造」で最も多く報告されている
- 障壁は技術力ではなく、機密データの扱い・現場ノウハウの属人化・社内文書の分散(McKinseyの言う「データの断片化」「業務プロセスの曖昧さ」)という構造的な課題
- WEFグローバル・ライトハウス・ネットワーク認定の工場は、中国(Siemens南京)・米国(Hitachi Vantaraオクラホマ)いずれも納期・リードタイムの大幅短縮を具体的な数値で示している
- 海外の動きを待つより、機密データを外部に出さない前提でAI活用を設計するほうが近道になる
海外の製造業はどこまでAIを使っているか
McKinsey & Company(QuantumBlack)が2026年8月に公開した調査レポート「The state of AI in 2026: On the road to ROI」は、世界の企業に所属する1,719名を対象に、2026年5月4日から6月8日にかけて実施した調査です。同レポートでは、回答者の88%が少なくとも1つの業務でAIを定常的に使っていると報告しています。生成AI単体では72%で、2024年時点の33%から大きく伸びています。数字だけ見ると「海外はもうAIが行き渡っている」という印象を受けますが、実態はもう少し複雑です。
このレポートによると、AI導入によるコスト削減効果が最も多く報告された業務領域は「サプライチェーン管理」「サービスオペレーション」「製造」の3つでした。自動車・航空宇宙・半導体といった先進的な製造業の回答者は、サプライチェーンや在庫管理、製造プロセスの中でAIエージェントを活用していると回答しています。
一方で、AIエージェントを全社的な標準として定着(スケール)させている組織は、まだ全体の約2割にとどまります。企業規模による差も大きく、年商10億ドル以上の企業では54%が全社スケールに到達している一方、それより小さい企業では約3分の1です。つまり「一つの業務で使ってみた」組織は88%あっても、「全社の標準にできた」組織はごく一部というのが実態です。しかも同レポートは、AIを使っている組織の中には「使ってはいるが収益への効果を実感できていない」という回答も同じくらいの割合で存在すると指摘しています。海外の製造業においても、AIを「試す」段階から「全社の当たり前」にして成果を出す段階への移行こそが、実は一番の壁になっていることが分かります。
なぜ全社展開がこれほど難しいのか
海外の先進製造業が直面しているこの壁は、日本の製造業とも無縁ではありません。当社が支援してきた製造業の現場でも、AI活用が一部の部署の実験で止まり、全社に広がらない理由の多くは技術的な難しさではなく、次の3つの構造的な課題に行き着きます。
ひとつは、機密性の高い設計データや実験データを外部のクラウドサービスに預けられないことです。図面や仕様書、品質検査データは、社外に一度出してしまうと取り返しがつきません。もうひとつは、現場のノウハウが特定の熟練工や担当者に偏っていることです。AIに何かを判断させるにも、参照できる形でデータ化されたノウハウがなければ活用のしようがありません。最後に、社内文書が部署ごと・世代ごとにばらばらに保管されていることです。AIエージェントが横断的に情報を扱おうとしても、探すべき文書がどこにあるか分からない状態では機能しません。
McKinseyの同レポートも、全社展開を阻む構造的な要因として「データの断片化」「業務プロセスの曖昧さ」「ガバナンスの不備」「変革マネジメントの弱さ」の4点を挙げています。当社が現場で見てきた課題(機密データ・ノウハウの属人化・文書分散)は、この「データの断片化」「業務プロセスの曖昧さ」とほぼ重なります。海外の先進製造業も、原因は同じところに行き着いているということです。
個人が自分のPCでAIツールを試すだけなら、こうした壁はほとんど関係ありません。壁が立ちはだかるのは、機密データや現場のノウハウを組織として扱おうとした瞬間です。海外調査で「88%が使い始めているのに、全社スケールは2割程度」という差が生まれているのも、多くの組織がまず個人単位・部署単位の試用から入り、そこから先の「機密データを含む全社展開」で足止めされているためだと考えられます。
工場の自律化に向かう方向性
Gartnerは製造業向けの分析セッション「Manufacturing Predicts 2026: Digital Twins, AI Agents, and the Race to Autonomous Operations」(2026年1月開催)の中で、デジタルツインとAIエージェントを組み合わせることで、工場の自律性が2030年に向けて段階的に高まっていく方向性を示しています。具体的な普及率などの数値は同社の非公開レポートに基づくため本記事では扱いませんが、方向性としては「人が個別に判断していた生産・品質・保全の一部を、AIエージェントが担うようになる」という流れが、海外の製造業分析でも共通して語られています。
全社展開できた工場は何が変わるのか
「2割」の側に入れた工場では、実際にどのような成果が出ているのでしょうか。世界経済フォーラム(WEF)が主導する「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」は、第4次産業革命技術を実装した先進工場を認定する枠組みで、2026年6月時点で世界238拠点が名を連ねています。WEFは2026年6月22日に新たな認定拠点を発表しており、同じ発表の中で、AIが個別の試行から事業運営の中核的な能力へ移りつつあるとも述べています。認定拠点の中から、地域の異なる2つの事例を見てみます。
Siemens「Digital Native Factory Nanjing」(中国・南京)
Siemens(シーメンス)の南京工場は2026年1月にライトハウス認定を受けました。同社発表(2026年1月15日)によると、AIを活用した生産ライン再構成を約4週間ごとに行える体制を構築し、2022年比で納期を78%短縮、市場投入までの期間を33%短縮、生産性を14%向上、現場不具合を46%削減、出荷リードタイムを45日から10日へ短縮したとしています。
Hitachi Vantara ノーマン工場(米国・オクラホマ州)
地域を変えると、米国の事例もあります。Hitachi Vantaraのストレージ製造拠点(米国オクラホマ州ノーマン)は2026年7月にライトハウス認定を受けました。同社発表(2026年7月15日)によると、AI活用によってリードタイムを77%短縮、在庫を50%削減、需要予測の精度を約19%向上、カスタム設定にかかるリードタイムを84%短縮、新人教育にかかる時間を80%削減したとしています。
いずれの発表にも機密データの扱いに関する言及は見当たらず、この2つの事例が示しているのは「機密データを外に出さない設計」そのものではなく、全社展開まで到達した場合に、業種・地域を問わずどれだけの成果が出うるかという到達点です。
海外の動きが示す日本の製造業への示唆
海外の調査データから見えてくるのは、「海外はAIが進んでいて日本は遅れている」という単純な話ではなく、海外の先進製造業ですら機密データの扱いや全社展開の難しさに直面しているという実態です。裏を返せば、機密の設計データや現場のノウハウを外部に出さずに使える基盤を最初から選んでおくことが、海外に先んじて「試す」段階から「使い続ける」段階へ進む近道になります。
当社が製造業向けに提供しているオンプレミスAIプラットフォーム「Cosnex」も、機密データを社外に出さずに技術継承・文書検索・設計品質の分析に使える仕組みを、この壁を前提に設計しています。製造業がクラウドAIをそのまま使えない理由と、オンプレミスAIでできることの全体像は、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
海外の製造業においても、AI活用は「一部の業務で使い始めた」段階が中心で、全社展開まで到達している組織は限られています。障壁になっているのは機密データの扱いや現場ノウハウの属人化であり、これは日本の製造業にも共通する課題です。海外の動きを待つのではなく、機密データを外部に出さない前提でAI活用を設計することが、実質的な近道になります。
製造業がオンプレミスAIで何を解決できるかは、製造業のオンプレミスAI導入ガイドで詳しく解説しています。導入の進め方や費用の考え方を知りたい方はあわせてご覧ください。オンプレミスAIプラットフォーム Cosnex の概要資料は、製品ページからダウンロードできます。






