素材・化学業界が生成AIを安全に活用する鍵は、設計データや実験データを外部に出さないオンプレミス運用にあります。
当社はオンプレミスAIプラットフォーム Cosnex を開発・提供しており、複数の製造系企業の導入支援に携わってきました。特に素材メーカーでは、配合データや実験ノウハウといった機密性の高い情報をクラウドに出せないという相談が多く、オンプレミス環境でのAI活用ニーズが根強いことを実感しています。
本記事では、素材・化学業界における生成AI活用の動向と、機密データを守りながらAIを導入するための考え方を整理します。導入検討の初期段階で押さえておきたい論点を中心に解説します。
素材・化学業界で生成AI活用が広がっている背景
素材・化学業界で生成AI活用が広がっている背景は、グローバル競争の激化とコモディティ化により、研究開発の効率化と収益性改善が急務になっているためです。
化学・素材産業は日本の製造業を支える基幹産業である一方、株価収益性の指標が他業界より低い水準にあるという指摘があります。市場からの評価を高めるには、成長分野への投資に加えて、既存の研究開発プロセスそのものを効率化する取り組みが求められます。
こうした状況下で注目されているのが、材料開発における生成AIの活用です。日経クロステックの報道によれば、三井化学は材料の「用途探索」に生成AIを活用し始めており、人の先入観を排して有望な用途を効率的に見つけることを狙いとしています(日経クロステック、2023年8月)。従来は研究者の経験や勘に頼っていた探索プロセスに、AIによる網羅的な提案を組み合わせる動きが具体化しています。
マテリアルズインフォマティクスと生成AIの連携がもたらす効果
マテリアルズインフォマティクス(MI)と生成AIを組み合わせることで、材料探索の初期段階を大幅に前倒しできる点が最大の効果です。
MIは、ビッグデータやAI技術を用いて材料の性質や組成を予測し、実験や試行錯誤にかかる時間を短縮する手法です。ここに生成AIを組み合わせると、既存データセットから欠損している物性値や組成パターンを補完したり、新しい候補材料のデザイン案を提示したりすることが可能になります。
さらに、大量の論文や特許情報の整理・要約にも生成AIは有効です。研究者が手作業で行っていた文献調査の負荷を軽減し、実験・試作に充てるリソースを増やせる点は、多くの化学・素材企業にとって現実的なメリットといえます。
ただし、MIと生成AIの連携効果は、学習に使う材料データとドメイン知識の質に大きく左右されます。電池材料や高分子材料、触媒など対象分野ごとに必要なデータの種類や評価指標が異なるため、自社の開発テーマに近い専門領域でのデータ資産の有無が、解析精度を左右する重要な要素になります。
素材・化学業界特有の機密データ問題
素材・化学業界における生成AI導入の最大の障壁は、配合データや実験データといった機密情報をクラウドサービスに預けられない点です。
他業種以上に、素材・化学業界では研究開発データそのものが競争力の源泉です。長年の実験によって蓄積された配合比率、反応条件、品質検査データなどは、外部に流出すれば製品の模倣や技術優位性の喪失に直結します。そのため、一般的なクラウド型の生成AIサービスにこれらのデータを入力することへの抵抗感は、他業界の企業よりも強い傾向があります。
この課題に対する現実的な解決策の一つが、AIモデルとデータを自社の管理下に置くオンプレミス環境での運用です。クラウドを経由せずに社内ネットワーク内で生成AIを稼働させることで、機密データを外部に送信せずに検索・要約・提案などの機能を利用できます。
当社が提供するオンプレミスAIプラットフォーム Cosnex も、こうした機密データを外部に出したくないというニーズに対応する形で設計されています。社内に蓄積された技術文書や実験データをAIが横断的に検索できる環境を、クラウドを介さずに構築できる点が特徴です。
クラウド型AIとオンプレミスAIの比較
クラウド型AIとオンプレミスAIは、導入スピードとデータ管理の自由度でトレードオフの関係にあります。
素材・化学業界がAI活用の方式を検討する際は、それぞれの特性を理解した上で自社の機密データの重要度に応じて選択する必要があります。
| 比較項目 | クラウド型AI | オンプレミス型AI |
|---|---|---|
| データの外部送信 | 発生する(ベンダーのサーバーに送信) | 発生しない(自社内で完結) |
| 導入スピード | 比較的速い | 環境構築の分だけ時間を要する |
| 機密データの取り扱い | 利用規約やベンダーのセキュリティ方針に依存 | 自社のセキュリティポリシーで管理可能 |
| カスタマイズ性 | ベンダーの提供機能に依存 | 自社データに合わせた調整がしやすい |
| 運用体制 | ベンダー側で保守 | 自社または委託先での保守が必要 |
配合データや特許出願前の実験結果など、社外流出が経営リスクに直結する情報を扱う部門ほど、オンプレミス型のメリットが大きくなる傾向があります。一方で、公開済みの技術文書の要約や一般的な文献調査など、機密性が相対的に低い業務であれば、クラウド型を併用する選択肢も検討に値します。
素材・化学業界での生成AI活用事例
機密性の高い設計データをクラウドに出せないという課題は、素材メーカーの現場で実際に生成AI導入を阻んできた要因の一つです。
ある素材メーカーでは、機密性の高い設計データをクラウドに出せないため、AI活用が進んでいないという課題を抱えていました。この課題に対して、オンプレミスで運用することで機密データを外部に出さずにAIを活用できる環境を整備した結果、品質検査の精度と速度が向上し、外部への情報漏洩リスクをなくすことができました。
この事例が示すのは、生成AI導入の障壁は技術的な難易度そのものよりも「機密データをどこに置くか」という運用方針の設計にあるという点です。オンプレミス環境を前提とすることで、これまでAI活用を見送ってきた部門でも導入の選択肢が現実的になります。
素材・化学業界がオンプレミスAIを導入する際の検討ポイント
オンプレミスAI導入を成功させるには、対象データの棚卸し、社内の運用体制、既存システムとの連携性という3つの観点を事前に整理する必要があります。
対象データの機密度を棚卸しする
すべてのデータを一律にオンプレミス環境に置く必要があるわけではありません。特許出願前の実験データや配合レシピなど機密度が特に高いものと、社内マニュアルのように比較的公開度の高いものを分類し、優先的にAI活用を進める領域を見極めることが最初のステップになります。
社内の運用・保守体制を確認する
オンプレミス環境はクラウドと異なり、サーバーやモデルの保守を自社または委託先で担う必要があります。情報システム部門のリソースや、AIベンダーによる準委任・コンサルティング形式での支援体制の有無を事前に確認しておくことが、導入後の運用負荷を左右します。
既存の研究開発システムとの連携性を確認する
CADデータや実験管理システム、MIツールなど既存の研究開発基盤とAIプラットフォームがどの程度連携できるかも重要な判断材料です。既存システムとの接続性が低いと、せっかく導入したAIが一部の業務でしか使われず、投資対効果が限定的になるおそれがあります。
なお、オンプレミスAIの導入費用は、対象データ量、サーバー構成、既存システムとの連携範囲などによって大きく変動するため、具体的な金額は個別の見積りで確認することをおすすめします。
技術継承と若手育成における生成AI活用
素材・化学業界に限らず製造業全般で、熟練者のノウハウを若手に引き継ぐ技術継承の課題は、生成AI活用の重要な適用領域になっています。
ある自動車部品メーカー(年商3,000億円規模)では、熟練工の大量退職を前に、30年分の現場ノウハウが失われようとしているという課題を抱えていました。CADファイルや仕様書、実験データが未整理で、設計開発に十分活用できていなかったのです。この課題に対して、現場のノウハウや過去の設計データをAIで検索・活用できる仕組みを導入し、技術継承につなげました。その結果、データ分析時間が85%削減され、設計効率が50%向上し、新入社員が初日から過去事例を参照できる状態になりました。
また、別の製造業A社では、ベテランのノウハウが属人化し、若手が過去の設計図やトラブル報告書を探すのに時間がかかるという課題がありました。技術継承を自動化する仕組みを導入した結果、開発リードタイムの短縮を実現しています。
素材・化学業界においても、長年の実験データやトラブル対応の記録は、担当者の異動や退職によって失われやすい資産です。これらをAIで検索可能な形にしておくことは、研究開発の効率化だけでなく、事業継続性の観点からも意味を持ちます。
問い合わせ対応業務の効率化という副次的効果
生成AI導入の効果は研究開発部門にとどまらず、社内の定型的な問い合わせ対応業務の負荷軽減にも及びます。
ある製薬業B社では、情報システム部門への定型的な問い合わせが殺到し、コア業務を圧迫しているという課題がありました。問い合わせ内容に応じて回答候補を提示する仕組みを導入した結果、社内ヘルプデスクの問い合わせ対応を90%削減することに成功しています。
素材・化学業界の研究開発部門でも、規格や試験手順に関する問い合わせが特定の担当者に集中するケースは少なくありません。こうした定型的なやり取りをAIに任せることで、専門人材がより付加価値の高い業務に集中できる環境を作ることができます。
オンプレミスAIプラットフォーム Cosnex の機能一覧・導入事例・料金は製品ページ(https://no1s.biz/solution/cosnex/)にまとめています。稟議用の概要資料が必要な場合は同ページから資料請求できます。導入の可否を個別に相談する場合はお問い合わせフォーム(https://no1s.biz/contact/)からご連絡ください。
よくある質問
素材・化学業界で生成AIを導入する際に最も注意すべき点は何ですか
配合データや実験データといった機密情報をどこに置くかという点です。クラウド型の生成AIサービスに機密データを入力することへの懸念が強い業界であるため、オンプレミス環境の採用を含めてデータの取り扱い方針を先に決めることが重要です。
オンプレミスAIとクラウドAIはどちらを選ぶべきですか
扱うデータの機密度によって判断します。特許出願前の実験結果や配合レシピなど社外流出が経営リスクに直結する情報はオンプレミス、公開済みの技術文書の要約など機密性が相対的に低い業務はクラウドという形で使い分ける企業もあります。
マテリアルズインフォマティクスと生成AIは何が違いますか
マテリアルズインフォマティクスは材料の性質や組成をデータ解析で予測する手法であり、生成AIは学習データをもとに新しい候補案やテキストを生成する技術です。両者を組み合わせることで、材料探索の初期段階を効率化できます。
オンプレミスAIの導入費用はどのくらいかかりますか
対象データ量やサーバー構成、既存システムとの連携範囲によって大きく変動するため、一律の金額を示すことはできません。具体的な費用は個別の見積りで確認することをおすすめします。
参考文献
- 日経クロステック「三井化学、材料の『用途探索』に生成AI」2023年8月28日 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08301






